2007年11月19日
春先の出会い
前のブログに挙げていた読みきり小説です。
個人的に、好きなので掲示することにしました。
バイク関係の小説です。駄文ですが、どうか温かい目でお読みください。
2007年2月21日掲載文
個人的に、好きなので掲示することにしました。
バイク関係の小説です。駄文ですが、どうか温かい目でお読みください。
2007年2月21日掲載文
午後四時半、男は日本の大学の中で最も権威があるだろう門を潜り、溜め息をついた。
家に帰り、寂しさとストレスで買い溜めた小物類を一瞥しながらリビングに入りTVをつける。自分でつけたくせに、バラエティの笑い声に我慢できなくてまた電源ボタンを押した。
静まり返った部屋のベッドにドカッと腰を下ろす。
「何なんだろうな?」
と誰に聞くでもない聞かすでもない独り言を呟いた。
彼の名は貴紀。超難関国立T大の2年生。成績は可も無く不可も無く。四年で卒業できるだろうというくらい。
貴紀は、気付くと暗闇の中に居た。
ベッドに腰を下ろしてから寝てしまったらしい。携帯の時計を見ると18:23と表示されている。大体2時間くらい寝てしまったようだ。
手探りで室内照明のスイッチを探し電灯をつけた。ちょっと肌寒い。春先の夕方はまだ暗くて寒い。しかも、薄着で寝てしまったから風邪を引いた様だ。貴紀は大きなくしゃみをした。
「栄養ドリンク飲んで寝れば酷くはならないな。」そうまた独り言を放つと貴紀はコンビニへ向う。
コンビニには何時も通り仕事帰りと見られるおじさんや、学生が立ち読み禁止の張り紙も無視で立ち読みしている。
貴紀もその集団に混じり退屈しのぎのファッション雑誌を手に取った。
貴紀はお洒落と言うには程遠い格好をしていたが、カラフルな「コレは買い!」や「~が今のキモ!」などの在り来たりなフレーズを使った“一押し”商品の写真をペラペラ捲ることで退屈しのぎくらいにはなった。
一通り雑誌をザッピングして栄養ドリンクのコーナーへと足を向けようとしたその時、漆黒の闇の中から二つ目の明かりが見えた。車のライトにしては感覚が狭いし、自転車は一つ目。何となく気になってその“二つ目”を眺めているとその“二つ目”はコンビニの前に止まった。コンビニのライトに当たってその二つ目はバイクYAMAHA R-1である事が解った。
貴紀は息を呑んだ。そのバイクの余りに美しいフォルムに…
ではなく、そのバイクのライダーが余りに小さい事に、だ。
140cmあるかないかのライダーは慣れたようにそのバイクから“飛び降りる”と手馴れた手つきでエンジンを切る。
そのライダーはとても小さいが何故か乗られているバイクはとても嬉しそうだった。
ライダーは大股で歩き、貴紀に近づき話しかける。
「すいません、トイレに行きたいんでちょっとどいてもらえます?」
貴紀は
「ぁあ、すいません」
と道を空けた。これが、ライダーと貴紀との最初の出会いだった。
次の日、昨日買って来た栄養ドリンクが効いたのか風邪はすっかり治ったようだ。
勉強道具一式を鞄に入れ、またいつもの大学へと足を運ぶ。
貴紀は高校時代を思い出していた。
彼の高校時代は正に絵に書いたような優等生。テストは毎回二位以下を広く引き離してトップだった。塾は行っていなかったが学者の父が毎日夜は付きっ切りで勉強“させられていた”。今思うと学歴の低かった父が自分に楽して欲しかったからなのかもしれない。
受験前はもっと酷く受験日一週間前まで一日3時間睡眠それ以外ずっと勉強、受験一週間前は5時間睡眠でテストに完璧に備えさせられた。
合格発表でT大合格がわかった後も、先生にはただ真面目に勉強しただけです。と答えた。
クラスの皆からは一目置かれ休み時間の間勉強すると周りで騒いでも、話しかけて来る者は居なかった。テスト前は別だが。
それが今では成績中の中。成績上位者はカンニングした奴か本当の天才。
今までの自分は何なんだろうな?と呟いてしまう。
高校時代ちやほやされ過ぎて寂しくなったのか?
勉強だけで空しさを感じたのか?
本当の自分って何なのか知りたくなったのか?
いくら自分に問いかけても何にも出て来やしない。
考え事をしながら歩いていたせいか校門を通り抜けてしまった。時計を見ると講義開始1分前。今までの優等生が災いしてか、遅刻が許せない。
渡りきった横断歩道の信号が青の点滅だったので全速力で走った。
その時、左折してきたバイクが体を掠め、ライダーは避けようとフルバンクした。
避けきれたのは良いが、道路の砂利にタイヤを取られ道路に滑り込んだ。
バイクのカウルは左側が無残にも傷だらけになり、ライダーも道路に寝転んだままだ。
この時、貴紀の足は学校の校門へ向いていた。
遅刻してしまう!!貴紀の気持ちは焦った。
遅刻したら怒られる!!怖い!!
おき上がらないライダーを背に貴紀は校門へ走る。
時計を見ると講義は既に開始している。ヤバイ!!ヤバイ!!怒られる!!
貴紀は泣きそうになりながら校門に走る。
貴紀は人生で一度だけ遅刻したことがある。それは小学校の時だ。通学路の横の川のせせらぎが綺麗で、眺めていたら学校を5分遅刻したのだ。その学期の通知表には「おしい!!この遅刻が無ければ無遅刻無欠席!!次を目指せ!!」と先生のコメントと遅刻回数の所の矢印とが書いてあった。
先生の文字は丸文字で激励だったが、それを見た父は顔がどんどん鬼のようになっていったのを覚えているが、それから何があったのか、貴紀は覚えていない。だが、激しい恐怖があった事はそれから中学高校が無遅刻無欠席だった事から伺える。
それがあってか、貴紀は全速力で走った。怒られる怒られる怒られる。
その時、ふと我に帰った。今思うとこけたのは昨日のライダーだった気がする。
やたら嬉しそうだったR-1。
不釣合いなのにやけに似合っていた“二人”。
遅刻が怖くて全速力の貴紀。
急に貴紀は急にこけたライダーが可哀想になった。
遅刻がなんだ!!
父親がなんだ!!と自分を鼓舞した。一人暮らしで大学生だから怒られる訳も無い。でも、なぜか、ここでライダーの元へ行くのが凄く怖い。ライダーも怒るだろう。でも、それ以上に言い知れぬ恐怖が貴紀を襲っていた。
今走って講義に行けばそれでも走ったんだよって良いわけできる。
だれに?
父に?
もう、怒る人は近くに居ないはずなのに。
そんな事を頭の中をぐるぐる回った。貴紀は目を強く瞑って静かに息を吐き、さっきの交差点に走った。
ライダーは既に起き上がっていたがバイクが起き上がらなかった様で、詰まった車からクラクションを鳴らされていた。
貴紀は走って行き、バイクのリアシートを掴んだ。
「手伝います。」
その一言が言えたらどんなにかっこよかっただろう?何となく罪悪感と緊張で言えなかった。
貴紀は無言でR-1を起こし、後ろから押しながら路側帯へ上げた。
「ありがとう!!さっき、横断歩道渡った後凄い勢いで走ってたけど大丈夫だった?」
小さなライダーはニコッと笑いながらそう言った。
「ぁあ、はい…。」
口だけ笑った不恰好な貴紀の笑いは自分でも解るほど気持ち悪かった。
「怪我は無かった?」
小さなライダーはそう聞いてきた。貴紀はこっちの台詞だと言いたかったが、
「ぁあ、大丈夫です。」としか答えられなかった。
「いやぁ、なんかこけた時当たった様な気がしたからさ!一応、何かあったら不味いからね、一応、俺の名前と連絡先かいとくよ!」
とポケットから取り出したメモ帳に名前と携帯の連絡先を書いた後、そのページを破って渡された。紙には山野鉄也と090‐××××‐××××と書かれていた。
左がボロボロのバイクに山野が“飛び乗り”、エンジンをかけるがセルは回るものの着火する様子が無い。
「こりゃカブッたなぁ。工具借りにバイク屋まで行くかな。」
と山野は独り言を言うと、スタンドを蹴り上げ、R-1を押し始めた。
貴紀はそれを見ていたが、山野とR-1への興味で一緒にバイクを押したくなった。
生唾を飲んで山野に歩み寄った。
「ぁあの…、て…手伝わせてくだしゃい。」
最後に少し噛んだが言いたい事は言えた。山野はまたにっこりと笑って、じゃあ、後ろから頼むわ。と後ろを指差した。
バイク屋まで3km程だったがR-1と山野と貴紀の“三人”は話しながら押したので、そんなに遠く感じなかった。
山野はT大ではないがこの付近の私立大学生だった事。たまたま今日が全休でバイクでの散歩を楽しんでいる最中だった事、出身、何てこと無い話をずっとしていた。
「ところで、貴紀は何処大生?」
何の気なしに山野は貴紀に聞いた。
(T大だよ。別に大した事無い大学だけど、高校時代は割りと勉強したね。)貴紀は山野が(T大!?凄いじゃないか!!)と言ってくる事を見越して頭の中で今まで言ってきたお決まりの台詞を考えた。
「T大だよ。」
そう貴紀が答えると、山根は、じっと貴紀を見て
「つまんねぇんだろ?いや、これからどうして良いのかわかんないんだな?」
とニヤニヤしながら言った。
貴紀は頭上に?マークを浮かべていると
山野は続けて
「高校時代は勉強だけしとけば良かったが、大学に入って社会に入って自由を手に入れた。しかし、何して良いか解らない。そして、自分だけ周りにおいていかれた気になってんだろ?」
貴紀はハッとした。ここ最近ずっと悩んでいた事を見事に文章化されたからだ。
それに、いままで思い出しておいた“お決まりの台詞”も使えなくなり
「あぁ、ま…まあそんなとこ。」
と答えた。
「そっかぁ、そりゃあ、大変だなぁ。」と山野はハハハッと笑いながら答えた。
その時、R-1も小さな砂利を踏んで上下に振るえ笑ってるように思えた。
貴紀は自分の悩みを笑われているように思えて腹が立ったが、山野の爽やかな笑いを見ると自然と立った腹も収まっていった。
一時間ほど歩くと山野の目的のバイク屋に着いた。
着くや否や山野は「店長!!」と叫んだ。すると、暫くして店長らしき人物が出てきた。
「どした?チビ~。」
とあくびをしながら店から出てくると山野の頭をポンと叩いた。
山野はその手を跳ね除け、R-1を店長に見せた。
「オイオイ、コレは前カウル全交換だから高いぜ?」
と店長は苦笑いしながら山野に言った。
山野は「いや、今金無いから後にする。それよりもびっしょり被ったみたいだから工具貸してくれ。」
と店長に言うと、ホイホイとバイク屋に入った。
「ま、前でするのもなんだ。入れ入れ。」
と手招きした。
山野と貴紀がバイク屋に入ると大小さまざまなバイクが展示してあった。しかし平日ってのもあって客は貴紀達二人だけだった。
店長が工具箱を山野に渡すと、「所で、お前は?」と貴紀に聞いてきた。
貴紀は「あ…あの…、何と言うか、横断歩道で…」
とゴニョゴニョ喋ってると、店長が
「ん?よく解らんなぁ、おい、チビ!コイツお前のダチか?」
「あの…友達と言うか…、そこの横断歩…。」
まだ、貴紀が言い終わらないうちに
「ダチさ、そこで出会ってね。色々世話になったんだ。」
山根は工具箱から工具を取り出しながら言った。
そうかそうかと店長は頷いた。
「後ね…」
山根は続けた。
「この子も人生の迷子らしいよ。」
とニヤニヤしながら店長に言った。
店長はがっはっは!!と笑い、貴紀の肩を叩いた。
「そうか、人生に迷っているのか。ところで、君はえ~…」
店長がいいどもると、貴紀が言った。
「た…貴紀です。」
「そう、貴紀君。人生とは迷いやすい物だ。そう、君は今、フリーター…かな?」
なんか、名言を言いたいなら情報を集めてから言えよと貴紀は多少呆れながら
「大学生。T大二年。です。」
多めに情報提示した。
「T大か…。高校時代はレールに乗っかって頑張れば良いが、社会はそうは行かない。ずるする奴もいれば、本当に凄い奴もいる。大抵そのどちらかが世間で大成するもんだ。で、君は糞真面目にそれはおかしいと思っている。…大体そんな感じ?」
山野に引き続き店長にも言い当てられ、貴紀は大変腹が立った。それも、この店長物事を何でもネタにして笑いものにする。それで、余計に腹が立った。
「まあ、そんな感じです。あの、僕って考えてる事解りやすいですか?」
貴紀が店長に聞くと、山野と店長が顔を見合わせてウッヒャッヒャと馬鹿笑いした。
貴紀は笑いものにされている気がして腹が立ったが、段々情けなくなり涙目になってきた。
それをみた店長はちょっと焦った。
「スマンスマン!いや、君らの悩みなんて大体そんなもんなんだよ。このチビも、そうだったしな。」
山野は黙々とタンクをはずしていた。聞こえない振りか、はたまた聞こえないのか?
「こいつは、大学に行かずに高校でて働くつもりだった。でも、親は大学に行けという。理由は簡単、高卒より周りの目が良いし、親もコイツに苦労させたくないんだろうな。で、こいつは反発として学校をサボりまくった。その上、不良になるためにうちのバイク屋に着たんだ。今のお前とは逆だけどよ、悩みは似てんだよ。そして、アイツはバイクに乗った。俺はもっと小さいバイクを進めたんだけどさ、あのバイクがあのチビに惚れこんじまってさ。」
悩みを解消する為に山野はバイクにのった。
そして、乗るバイクは山野がそのバイクを選んだんじゃなく、バイクが山野を選んだ。ばかげた話だが、何となく解る気がする。そして、貴紀はバイクに乗りたいと思った。
話が終わった頃、丁度R-1のエンジンがかかった。
その音が、正に悩みという名の貴紀の心にかかった雲をとり除く風のようだった。
もう、俺何なんだろう?という貴紀の疑問の答えは出た。
貴紀は今までに無い晴れ晴れとした気分に成った。
ただ、一台のバイクに乗るだけ。それだけの事かもしれない。
しかし、それはそれだけの意味じゃなくて一つの自分の生き方を得るって事なのかもしれない。
乗ったって何も変わらないかもしれない。
でも、乗らなかったら絶対何も変わらない!
そう思うと、居ても立っても居られなくなり楽しくなってきた。
店長は貴紀の背中を叩き、封筒を手渡した。
封筒には二輪免許取得の為の自動車学校の資料が入っていた。
家に帰り、寂しさとストレスで買い溜めた小物類を一瞥しながらリビングに入りTVをつける。自分でつけたくせに、バラエティの笑い声に我慢できなくてまた電源ボタンを押した。
静まり返った部屋のベッドにドカッと腰を下ろす。
「何なんだろうな?」
と誰に聞くでもない聞かすでもない独り言を呟いた。
彼の名は貴紀。超難関国立T大の2年生。成績は可も無く不可も無く。四年で卒業できるだろうというくらい。
貴紀は、気付くと暗闇の中に居た。
ベッドに腰を下ろしてから寝てしまったらしい。携帯の時計を見ると18:23と表示されている。大体2時間くらい寝てしまったようだ。
手探りで室内照明のスイッチを探し電灯をつけた。ちょっと肌寒い。春先の夕方はまだ暗くて寒い。しかも、薄着で寝てしまったから風邪を引いた様だ。貴紀は大きなくしゃみをした。
「栄養ドリンク飲んで寝れば酷くはならないな。」そうまた独り言を放つと貴紀はコンビニへ向う。
コンビニには何時も通り仕事帰りと見られるおじさんや、学生が立ち読み禁止の張り紙も無視で立ち読みしている。
貴紀もその集団に混じり退屈しのぎのファッション雑誌を手に取った。
貴紀はお洒落と言うには程遠い格好をしていたが、カラフルな「コレは買い!」や「~が今のキモ!」などの在り来たりなフレーズを使った“一押し”商品の写真をペラペラ捲ることで退屈しのぎくらいにはなった。
一通り雑誌をザッピングして栄養ドリンクのコーナーへと足を向けようとしたその時、漆黒の闇の中から二つ目の明かりが見えた。車のライトにしては感覚が狭いし、自転車は一つ目。何となく気になってその“二つ目”を眺めているとその“二つ目”はコンビニの前に止まった。コンビニのライトに当たってその二つ目はバイクYAMAHA R-1である事が解った。
貴紀は息を呑んだ。そのバイクの余りに美しいフォルムに…
ではなく、そのバイクのライダーが余りに小さい事に、だ。
140cmあるかないかのライダーは慣れたようにそのバイクから“飛び降りる”と手馴れた手つきでエンジンを切る。
そのライダーはとても小さいが何故か乗られているバイクはとても嬉しそうだった。
ライダーは大股で歩き、貴紀に近づき話しかける。
「すいません、トイレに行きたいんでちょっとどいてもらえます?」
貴紀は
「ぁあ、すいません」
と道を空けた。これが、ライダーと貴紀との最初の出会いだった。
次の日、昨日買って来た栄養ドリンクが効いたのか風邪はすっかり治ったようだ。
勉強道具一式を鞄に入れ、またいつもの大学へと足を運ぶ。
貴紀は高校時代を思い出していた。
彼の高校時代は正に絵に書いたような優等生。テストは毎回二位以下を広く引き離してトップだった。塾は行っていなかったが学者の父が毎日夜は付きっ切りで勉強“させられていた”。今思うと学歴の低かった父が自分に楽して欲しかったからなのかもしれない。
受験前はもっと酷く受験日一週間前まで一日3時間睡眠それ以外ずっと勉強、受験一週間前は5時間睡眠でテストに完璧に備えさせられた。
合格発表でT大合格がわかった後も、先生にはただ真面目に勉強しただけです。と答えた。
クラスの皆からは一目置かれ休み時間の間勉強すると周りで騒いでも、話しかけて来る者は居なかった。テスト前は別だが。
それが今では成績中の中。成績上位者はカンニングした奴か本当の天才。
今までの自分は何なんだろうな?と呟いてしまう。
高校時代ちやほやされ過ぎて寂しくなったのか?
勉強だけで空しさを感じたのか?
本当の自分って何なのか知りたくなったのか?
いくら自分に問いかけても何にも出て来やしない。
考え事をしながら歩いていたせいか校門を通り抜けてしまった。時計を見ると講義開始1分前。今までの優等生が災いしてか、遅刻が許せない。
渡りきった横断歩道の信号が青の点滅だったので全速力で走った。
その時、左折してきたバイクが体を掠め、ライダーは避けようとフルバンクした。
避けきれたのは良いが、道路の砂利にタイヤを取られ道路に滑り込んだ。
バイクのカウルは左側が無残にも傷だらけになり、ライダーも道路に寝転んだままだ。
この時、貴紀の足は学校の校門へ向いていた。
遅刻してしまう!!貴紀の気持ちは焦った。
遅刻したら怒られる!!怖い!!
おき上がらないライダーを背に貴紀は校門へ走る。
時計を見ると講義は既に開始している。ヤバイ!!ヤバイ!!怒られる!!
貴紀は泣きそうになりながら校門に走る。
貴紀は人生で一度だけ遅刻したことがある。それは小学校の時だ。通学路の横の川のせせらぎが綺麗で、眺めていたら学校を5分遅刻したのだ。その学期の通知表には「おしい!!この遅刻が無ければ無遅刻無欠席!!次を目指せ!!」と先生のコメントと遅刻回数の所の矢印とが書いてあった。
先生の文字は丸文字で激励だったが、それを見た父は顔がどんどん鬼のようになっていったのを覚えているが、それから何があったのか、貴紀は覚えていない。だが、激しい恐怖があった事はそれから中学高校が無遅刻無欠席だった事から伺える。
それがあってか、貴紀は全速力で走った。怒られる怒られる怒られる。
その時、ふと我に帰った。今思うとこけたのは昨日のライダーだった気がする。
やたら嬉しそうだったR-1。
不釣合いなのにやけに似合っていた“二人”。
遅刻が怖くて全速力の貴紀。
急に貴紀は急にこけたライダーが可哀想になった。
遅刻がなんだ!!
父親がなんだ!!と自分を鼓舞した。一人暮らしで大学生だから怒られる訳も無い。でも、なぜか、ここでライダーの元へ行くのが凄く怖い。ライダーも怒るだろう。でも、それ以上に言い知れぬ恐怖が貴紀を襲っていた。
今走って講義に行けばそれでも走ったんだよって良いわけできる。
だれに?
父に?
もう、怒る人は近くに居ないはずなのに。
そんな事を頭の中をぐるぐる回った。貴紀は目を強く瞑って静かに息を吐き、さっきの交差点に走った。
ライダーは既に起き上がっていたがバイクが起き上がらなかった様で、詰まった車からクラクションを鳴らされていた。
貴紀は走って行き、バイクのリアシートを掴んだ。
「手伝います。」
その一言が言えたらどんなにかっこよかっただろう?何となく罪悪感と緊張で言えなかった。
貴紀は無言でR-1を起こし、後ろから押しながら路側帯へ上げた。
「ありがとう!!さっき、横断歩道渡った後凄い勢いで走ってたけど大丈夫だった?」
小さなライダーはニコッと笑いながらそう言った。
「ぁあ、はい…。」
口だけ笑った不恰好な貴紀の笑いは自分でも解るほど気持ち悪かった。
「怪我は無かった?」
小さなライダーはそう聞いてきた。貴紀はこっちの台詞だと言いたかったが、
「ぁあ、大丈夫です。」としか答えられなかった。
「いやぁ、なんかこけた時当たった様な気がしたからさ!一応、何かあったら不味いからね、一応、俺の名前と連絡先かいとくよ!」
とポケットから取り出したメモ帳に名前と携帯の連絡先を書いた後、そのページを破って渡された。紙には山野鉄也と090‐××××‐××××と書かれていた。
左がボロボロのバイクに山野が“飛び乗り”、エンジンをかけるがセルは回るものの着火する様子が無い。
「こりゃカブッたなぁ。工具借りにバイク屋まで行くかな。」
と山野は独り言を言うと、スタンドを蹴り上げ、R-1を押し始めた。
貴紀はそれを見ていたが、山野とR-1への興味で一緒にバイクを押したくなった。
生唾を飲んで山野に歩み寄った。
「ぁあの…、て…手伝わせてくだしゃい。」
最後に少し噛んだが言いたい事は言えた。山野はまたにっこりと笑って、じゃあ、後ろから頼むわ。と後ろを指差した。
バイク屋まで3km程だったがR-1と山野と貴紀の“三人”は話しながら押したので、そんなに遠く感じなかった。
山野はT大ではないがこの付近の私立大学生だった事。たまたま今日が全休でバイクでの散歩を楽しんでいる最中だった事、出身、何てこと無い話をずっとしていた。
「ところで、貴紀は何処大生?」
何の気なしに山野は貴紀に聞いた。
(T大だよ。別に大した事無い大学だけど、高校時代は割りと勉強したね。)貴紀は山野が(T大!?凄いじゃないか!!)と言ってくる事を見越して頭の中で今まで言ってきたお決まりの台詞を考えた。
「T大だよ。」
そう貴紀が答えると、山根は、じっと貴紀を見て
「つまんねぇんだろ?いや、これからどうして良いのかわかんないんだな?」
とニヤニヤしながら言った。
貴紀は頭上に?マークを浮かべていると
山野は続けて
「高校時代は勉強だけしとけば良かったが、大学に入って社会に入って自由を手に入れた。しかし、何して良いか解らない。そして、自分だけ周りにおいていかれた気になってんだろ?」
貴紀はハッとした。ここ最近ずっと悩んでいた事を見事に文章化されたからだ。
それに、いままで思い出しておいた“お決まりの台詞”も使えなくなり
「あぁ、ま…まあそんなとこ。」
と答えた。
「そっかぁ、そりゃあ、大変だなぁ。」と山野はハハハッと笑いながら答えた。
その時、R-1も小さな砂利を踏んで上下に振るえ笑ってるように思えた。
貴紀は自分の悩みを笑われているように思えて腹が立ったが、山野の爽やかな笑いを見ると自然と立った腹も収まっていった。
一時間ほど歩くと山野の目的のバイク屋に着いた。
着くや否や山野は「店長!!」と叫んだ。すると、暫くして店長らしき人物が出てきた。
「どした?チビ~。」
とあくびをしながら店から出てくると山野の頭をポンと叩いた。
山野はその手を跳ね除け、R-1を店長に見せた。
「オイオイ、コレは前カウル全交換だから高いぜ?」
と店長は苦笑いしながら山野に言った。
山野は「いや、今金無いから後にする。それよりもびっしょり被ったみたいだから工具貸してくれ。」
と店長に言うと、ホイホイとバイク屋に入った。
「ま、前でするのもなんだ。入れ入れ。」
と手招きした。
山野と貴紀がバイク屋に入ると大小さまざまなバイクが展示してあった。しかし平日ってのもあって客は貴紀達二人だけだった。
店長が工具箱を山野に渡すと、「所で、お前は?」と貴紀に聞いてきた。
貴紀は「あ…あの…、何と言うか、横断歩道で…」
とゴニョゴニョ喋ってると、店長が
「ん?よく解らんなぁ、おい、チビ!コイツお前のダチか?」
「あの…友達と言うか…、そこの横断歩…。」
まだ、貴紀が言い終わらないうちに
「ダチさ、そこで出会ってね。色々世話になったんだ。」
山根は工具箱から工具を取り出しながら言った。
そうかそうかと店長は頷いた。
「後ね…」
山根は続けた。
「この子も人生の迷子らしいよ。」
とニヤニヤしながら店長に言った。
店長はがっはっは!!と笑い、貴紀の肩を叩いた。
「そうか、人生に迷っているのか。ところで、君はえ~…」
店長がいいどもると、貴紀が言った。
「た…貴紀です。」
「そう、貴紀君。人生とは迷いやすい物だ。そう、君は今、フリーター…かな?」
なんか、名言を言いたいなら情報を集めてから言えよと貴紀は多少呆れながら
「大学生。T大二年。です。」
多めに情報提示した。
「T大か…。高校時代はレールに乗っかって頑張れば良いが、社会はそうは行かない。ずるする奴もいれば、本当に凄い奴もいる。大抵そのどちらかが世間で大成するもんだ。で、君は糞真面目にそれはおかしいと思っている。…大体そんな感じ?」
山野に引き続き店長にも言い当てられ、貴紀は大変腹が立った。それも、この店長物事を何でもネタにして笑いものにする。それで、余計に腹が立った。
「まあ、そんな感じです。あの、僕って考えてる事解りやすいですか?」
貴紀が店長に聞くと、山野と店長が顔を見合わせてウッヒャッヒャと馬鹿笑いした。
貴紀は笑いものにされている気がして腹が立ったが、段々情けなくなり涙目になってきた。
それをみた店長はちょっと焦った。
「スマンスマン!いや、君らの悩みなんて大体そんなもんなんだよ。このチビも、そうだったしな。」
山野は黙々とタンクをはずしていた。聞こえない振りか、はたまた聞こえないのか?
「こいつは、大学に行かずに高校でて働くつもりだった。でも、親は大学に行けという。理由は簡単、高卒より周りの目が良いし、親もコイツに苦労させたくないんだろうな。で、こいつは反発として学校をサボりまくった。その上、不良になるためにうちのバイク屋に着たんだ。今のお前とは逆だけどよ、悩みは似てんだよ。そして、アイツはバイクに乗った。俺はもっと小さいバイクを進めたんだけどさ、あのバイクがあのチビに惚れこんじまってさ。」
悩みを解消する為に山野はバイクにのった。
そして、乗るバイクは山野がそのバイクを選んだんじゃなく、バイクが山野を選んだ。ばかげた話だが、何となく解る気がする。そして、貴紀はバイクに乗りたいと思った。
話が終わった頃、丁度R-1のエンジンがかかった。
その音が、正に悩みという名の貴紀の心にかかった雲をとり除く風のようだった。
もう、俺何なんだろう?という貴紀の疑問の答えは出た。
貴紀は今までに無い晴れ晴れとした気分に成った。
ただ、一台のバイクに乗るだけ。それだけの事かもしれない。
しかし、それはそれだけの意味じゃなくて一つの自分の生き方を得るって事なのかもしれない。
乗ったって何も変わらないかもしれない。
でも、乗らなかったら絶対何も変わらない!
そう思うと、居ても立っても居られなくなり楽しくなってきた。
店長は貴紀の背中を叩き、封筒を手渡した。
封筒には二輪免許取得の為の自動車学校の資料が入っていた。
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